模試前夜に不安で眠れない夜、心の中で自分の名前を呼んでみませんか
模試や受験の前夜、「また同じところで失敗したら」と考えが頭から離れなくなることはありませんか。布団に入っても心臓がドキドキして、気づけば何時間も同じ不安を繰り返し考えてしまう。そんなときに試してほしいのが、自分の名前で自分に話しかける「セルフディスタンシング」という方法です。
「私は不安だ」ではなく「(自分の名前)は今不安を感じている」と、一歩引いた言葉に置き換えるだけで、感情に飲み込まれにくくなるとされています。この記事では、心理学の研究にもとづいたセルフディスタンシングの仕組みと、模試・受験前にそのまま使える具体的な手順を紹介します。
セルフディスタンシングとは何か
セルフディスタンシングとは、自分の感情や出来事から少し距離を置き、まるで他人の出来事を見るように自分自身を振り返る心理的なテクニックです。ミシガン大学の心理学者イーサン・クロス氏らの研究グループが提唱・検証してきた考え方で、著書『Chatter(チャッター)』でも紹介されています。
なぜ「私は」ではなく「名前」で話しかけるのか
「私は緊張している」と考えると、その感情の中に入り込んでしまい、冷静に状況を見るのが難しくなります。一方で「(名前)は緊張している」「あなたは緊張している」のように、一人称以外の言葉で自分を呼ぶと、友達の相談を聞くときのような少し離れた視点で状況を見られるようになるとされています。
受験生にとって試す価値がある理由
セルフディスタンシングは、道具もお金も必要なく、模試会場でも試験の休み時間でもその場ですぐ試せる方法です。「効果があるかわからないものに時間を使いたくない」という受験生でも、数十秒で終わるぶん試しやすいと言えます。次の章で、この方法の根拠になっている研究を具体的に見ていきます。
セルフディスタンシングが不安に効くとされる理由(研究からわかること)
ここで紹介する研究は、模試や受験そのものを対象にしたものではなく、スピーチ前の緊張など近い場面での実験にもとづくものです。受験に直接あてはめた検証ではない点を踏まえたうえで、参考にしてください。効果の大きさにも個人差があるとされています。
「名前を変えるだけで本当に効果があるのか」と疑問に思う方もいるはずです。ここでは根拠になっている研究を、論文名や出典とあわせて紹介します。
人前で話す前の実験でわかったこと
心理学者イーサン・クロス氏らが2014年に『Journal of Personality and Social Psychology』誌に発表した研究「Self-talk as a regulatory mechanism: How you do it matters」(論文PDF)では、参加者に短いスピーチの準備をしてもらう実験が行われました。「私は◯◯だ」と一人称で振り返ったグループより、「(名前)は◯◯だ」と非一人称で振り返ったグループのほうが、第三者の評価で話し方の評価が高く、本人が感じる苦痛や恥の感情も小さかったと報告されています。終わったあとに同じ失敗を繰り返し考え込む「反すう」も、非一人称グループのほうが少なかったとされています。
不安になりやすい人にも効果があるとされる
「緊張しやすい自分には効かないのでは」と感じる方もいるかもしれません。クロス氏へのインタビュー記事(PMC掲載記事)では、社交不安の傾向が強い人とそうでない人を比較したメタ分析でも、効果の出方に大きな差は見られなかったという結果が紹介されています。緊張しやすい受験生にも試す価値があるとされる理由です。
脳の反応は1秒ほどで変わるとされている
心理学者ジェイソン・モーザー氏とクロス氏らが2017年に『Scientific Reports』誌に発表した研究「Third-person self-talk facilitates emotion regulation without engaging cognitive control: Converging evidence from ERP and fMRI」(論文)では、脳波(ERP)を使って、自分を三人称で呼び始めてからわずか1秒ほどで、感情的な苦痛に関連する脳活動(late positive potential)が小さくなり始めたことが確認されています。深呼吸のように、意識してすぐ使える対処法の一つと言えそうです。
模試・試験前にできるセルフディスタンシングの具体的なやり方
ここからは、模試や受験前にそのまま使える3つのステップを紹介します。
ステップ1:不安な気持ちを「名前」で言葉にする
まず、頭の中にある不安を「私は」ではなく自分の名前で言葉にしてみます。例えば「(名前)は、また同じミスをするんじゃないかと心配しているんだね」というように、心の中でつぶやきます。声に出しても、心の中だけでも構いません。
ステップ2:友達にアドバイスするつもりで声をかける
次に、同じ不安を友達が相談してきたとしたら、自分は何と声をかけるかを考えます。「前回もこのパターンで乗り切ってきたし、できることを一つずつやれば大丈夫」というように、自分に対してではなく「友達に向けた言葉」として声をかけてみます。
NG例:「私はダメだ、また同じミスをするに違いない」
OK例:「(名前)は今、同じミスを繰り返すんじゃないかと心配しているんだね。前回はここまでやってきたから大丈夫」
ステップ3:使うタイミングの例(前日夜・当日朝・休み時間)
声に出せる場面と出せない場面とで、使い方を変えるとやりやすくなります。
- 前日の夜:不安を具体的に書き出し、名前で言葉にする
- 当日の朝:短く「(名前)、大丈夫」と心の中でつぶやく
- 試験の休み時間:次の科目への切り替えに使う
前日はじっくり、当日は短く、という使い分けがしやすい方法です。
ポイント:「私は不安だ」を「(名前)は不安だ」に言い換え、友達に声をかけるつもりで自分に話しかけるだけでよい。
深呼吸・書き出しなど、他の不安対処法との違い
不安への対処法はほかにもあります。それぞれの特徴を比較してみます。
| 方法 | やり方 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 深呼吸・呼吸法 | ゆっくり息を吐く | 今すぐ緊張を鎮めたいとき |
| 書き出し(エクスプレッシブライティング) | 不安をそのまま紙に書く | 時間に余裕があるとき |
| セルフディスタンシング | 名前で自分に話しかける | 考えが堂々巡りしているとき |
どれか一つに絞る必要はなく、前日は書き出し、当日はセルフディスタンシングと深呼吸、というように組み合わせても構いません。
セルフディスタンシングを使うときの注意点
便利な方法ですが、使い方や不安の程度によっては注意しておきたい点もあります。ここで3つ押さえておきましょう。
「絶対に大丈夫」と思い込むためのものではない
セルフディスタンシングは、不安を完全になくす方法ではありません。不安そのものと少し距離を置き、冷静に次の行動を考えやすくするための方法とされています。「これをやれば絶対合格する」といった使い方は本来の目的とは異なります。
不安が強すぎるときは無理に一人で抱え込まない
眠れない日が何日も続く、食欲がわかない状態が続く、「消えてしまいたい」と感じるなど、つらさが強いと感じる場合は、セルフディスタンシングだけで対処しようとせず、スクールカウンセラーや医療機関(心療内科・精神科)など、専門家に相談することを優先してください。
模試前の不安の「軽い波」のうちに使うのが向いている
セルフディスタンシングが向いているのは、「少し緊張してきたな」「また不安がぶり返してきた」という、比較的軽い波のうちです。早めに気づいて使うほど、考え込みすぎる前に気持ちを切り替えやすくなります。
Q. 自分の名前を心の中で呼ぶのが恥ずかしく感じます。
A. 声に出す必要はありません。心の中だけで、短く「(名前)、大丈夫」とつぶやく程度でも十分とされています。
模試の判定が思うように伸びず、不安が続いている方はこちらの記事も参考になります。また、満点を目指すあまり苦しくなってしまう方はこちらの記事で完璧主義との付き合い方を紹介しています。周りの結果と比べて落ち込みやすい方にはこちらの記事もあわせてご覧ください。
模試前の不安を鎮める「セルフディスタンシング」|自分の名前で自分に話しかける方法:まとめ
模試や受験前の不安は、「私は」を自分の名前に置き換えるだけで、少し距離を置いて見られるようになるとされています。友達にアドバイスするつもりで声をかけ、前日はじっくり、当日は短く使い分けてみてください。
セルフディスタンシングを試しても不安がおさまらないときは、その不安の根っこに「このままの勉強法で本当に間に合うのか」という、学習計画そのものへの不安が隠れていることも少なくありません。一人で抱え込みすぎず、不安との付き合い方に迷ったときは、学習計画や勉強法を含めて相談できる場所を持っておくことも助けになります。
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