「模試の判定を見るたびに、頭が真っ白になる」「E判定だったから、もう合格は無理だと思ってしまう」ーーそんなふうに、たった一つの出来事から一気に結論を飛ばしてしまうことはないだろうか。
これは心理学で「認知の歪み」と呼ばれる思考のクセによるものだ。性格の問題ではなく、誰にでも起こりうる考え方のパターンであり、気づいて整え方を知れば、少しずつ和らげていくことができる。
この記事では、受験生に起こりやすい認知の歪みの具体例と、一人でも取り組める「セルフコーチング5ステップ」を紹介する。
なぜ受験期は「認知の歪み」が起こりやすいのか
受験勉強は、今日の努力がすぐに結果として返ってくるわけではない。模試の判定や周囲の様子と自分を比べる機会も多く、不安や焦りを感じやすい時期だと言える。
さらに、睡眠不足や疲労が続くと、ネガティブな情報の方に意識が向きやすくなる、という指摘もある。もともと冷静に考えられる人でも、受験期特有の条件が重なることで、一時的に思考が極端になりやすい。
では、実際にどんな考え方のクセが受験生に起こりやすいのか。次の章で代表的なパターンを一つずつ確認し、自分に当てはまるものがないかチェックしてみよう。
受験生に多い「認知の歪み」の代表的なパターン
精神科医デビッド・バーンズ氏は、著書『Feeling Good』(1980年)の中で、代表的な「認知の歪み」を10種類にまとめている。そのうち、受験生に特に当てはまりやすいものを紹介する。
全か無か思考
一度のミスや一つの模試の結果だけで、「完全に失敗した」「もうダメだ」と、白か黒かで判断してしまう考え方だ。
例えば、得意科目で普段より低い点を取っただけで、「今回の模試はすべて台無しだ」と感じてしまうようなケースがこれにあたる。模試の自己採点で最初の1問を間違えた途端、その後の問題に集中できなくなってしまうのも同じパターンだ。
結論の飛躍(先読みの誤り)
根拠がそろう前に、悪い結果を先回りして決めつけてしまう考え方だ。
「E判定だったから、どうせ本番も落ちる」というように、まだ起きていない未来を断定してしまう場合がこれにあたる。友人の判定が自分より良かっただけで、「あの子には絶対勝てない」と決めつけてしまうのも同様だ。
心のフィルター
良い部分や成長した部分を無視して、悪い部分だけに意識が向いてしまう考え方だ。
前回より正答率が上がった科目があっても、できなかった一問だけが頭から離れず、「全然できていない」と感じてしまうことがある。模試の総合コメントに良い点が書かれていても、弱点の指摘だけが目に入ってしまうのも同じパターンだ。
一般化のしすぎ
一度の失敗を、まるでいつも繰り返すパターンであるかのように広げてとらえてしまう考え方だ。
「今回のテストでケアレスミスをした」が、いつの間にか「自分はいつもミスばかりする人間だ」という思い込みに変わってしまうことがある。一度朝寝坊して勉強時間を減らしただけで、「自分は意志が弱くて続けられない人間だ」と結論づけてしまうのも同様だ。
認知の歪みに気づき整える「セルフコーチング5ステップ」
認知の歪みは、気づいて書き出し、別の見方に言い換える練習を重ねることで、少しずつ扱いやすくなっていく。この流れは、認知行動療法(CBT)で「認知再構成法」と呼ばれる技法の基本的な考え方に基づくものだ。ここでは、一人でも取り組める5つのステップを紹介する。
ステップ1 書き出す(セルフモニタリング)
まずは、今感じているモヤモヤや不安を、そのままノートに書き出す。
「E判定で落ち込んでいる」「周りと比べて焦っている」など、頭の中にある言葉をそのまま外に出すことが最初の一歩だ。
ステップ2 歪みのパターンに名前をつける
書き出した考えが、全か無か思考なのか、結論の飛躍なのか、どのパターンに近いかを照らし合わせてみる。
名前をつけるだけで、「自分の性格の問題」ではなく「よくある思考のクセ」として客観的に眺められるようになる。
ステップ3 証拠を集めて検証する
その考えを裏づける事実と、反対する事実を両方書き出してみる。
「E判定だったから落ちる」に対して、「E判定から逆転した先輩もいる」「まだ本番まで時間が残っている」など、反対の事実も必ず探してみる。
ステップ4 言い換える(代替思考をつくる)
集めた証拠をもとに、より現実に近い考え方に言い換える。
「E判定だから落ちる」ではなく、「E判定は現時点の結果であり、残りの期間の対策次第で変えられる」のように、断定ではなく可能性として言い換えるとよい。
ステップ5 記録を続けて習慣化する
1〜4のステップを、一度で終わらせずに続けていくことが大切だ。
一日の終わりに数分だけ、感情が動いた場面を簡単にメモする習慣をつけると、自分がどんな場面で歪んだ考え方になりやすいか、パターンが見えてくる。
【セルフコーチング5ステップまとめ】
①書き出す(セルフモニタリング)
②歪みのパターンに名前をつける
③証拠を集めて検証する
④言い換える(代替思考をつくる)
⑤記録を続けて習慣化する
模試の判定に落ち込んだときの言い換え例
実際に受験生が陥りやすい場面を例に、歪んだ考え方と言い換え後の考え方を比べてみる。
| 場面 | 歪んだ考え方 | 言い換え後の考え方 |
|---|---|---|
| 模試でE判定だった | もう合格は無理だ | 今の立ち位置が分かった。残りの期間で対策を立てられる |
| 得意科目で失点した | 今回はすべて台無しだ | 苦手な一問が見つかった。他の問題は解けている |
| 友人の判定の方が良かった | 自分はもうダメだ | 比べる相手は過去の自分。今日やるべきことに集中する |
セルフコーチングで気をつけたいこと
セルフコーチングは便利な方法だが、やり方を間違えると逆効果になることもある。NG行動とOK行動を整理しておく。
NG行動
・一度の実践で「変わらない」と諦める
・書き出した考えを自分で責める材料にする
・言い換えを「無理にポジティブにする」ことだと捉える
OK行動
・小さな気づきでも続けることを優先する
・事実とそうでない部分を分けて眺める
・現実的で、やや楽な考え方に少しずつ近づける
一人で抱え込みすぎないために
セルフコーチングは、あくまで日常的な気持ちの整理を助けるものであり、医療的な治療の代わりにはならない。
不眠が何日も続く、食欲が大きく落ちる、「消えてしまいたい」といった気持ちが出てくる場合は、一人で抱え込まず、スクールカウンセラーや心療内科・精神科などの専門機関に早めに相談してほしい。
セルフコーチングで気持ちが落ち着かない場合や、
症状が続く場合は、専門家への相談を優先する。
また、模試の結果が伸び悩んで不安になったときの考え方は自分の受験勉強の成長を視覚化できるJカーブの法則も参考になるので、あわせてご覧いただきたい。
気持ちの浮き沈みが大きく、一人で抱えきれないと感じる場合は受験でメンタルが弱い人が実践すると良いメンタルの保ち方もあわせて確認しておくと安心だ。
一人で抱え込んで考え方のクセを直そうとすると、同じ思考パターンを繰り返してしまうことも少なくない。専門機関への相談と並行して、日々の学習に寄り添いながら気持ちの波にも気づいてくれる存在がいると、こうした思考のクセにも早い段階で向き合いやすくなる。
大学受験の個別指導塾「My Self_Learn」では、学習計画の相談だけでなく、成績や勉強の進み具合に限らない日々の悩みごとも講師に相談できる体制を取っており、一人ひとりのペースに合わせて気持ちの波にも気づきやすい関わり方を心がけている。
自分だけで抱えるのが難しいと感じたら、専門の講師に相談してみるのも一つの選択肢だ。
認知の歪みとは?セルフコーチング5ステップで受験期の思考のクセを整える方法:まとめ
受験期は、結果がすぐに出ないことへの焦りや、周囲との比較から、認知の歪みが起こりやすい時期だ。
全か無か思考や結論の飛躍などのパターンに気づき、書き出す→名前をつける→証拠を集める→言い換える→記録する、というセルフコーチング5ステップを繰り返すことで、思考のクセは少しずつ扱いやすくなっていく。
一人で抱え込みすぎず、必要なときは周囲や専門家の力も借りながら、自分のペースで整えていってほしい。今日の一つの結果は、受験そのものの結論ではない。




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